Where is a place for us?

居場所はどこにある?入場予約


展覧会「居場所はどこにある?」Interviews

小林勇輝 YUKI Kobayashi

「居場所はどこにある?」
2021年6月6日 小林勇輝パフォーマンス

小林さんは元々プロのテニスプレイヤーを目指していたとか。

そうですね。フロリダにテニスアカデミーがあるんですけど、そこに 毎年遠征で行っていました。美術にすごく興味があったので、大学では美術もスポーツも両方やりたくて、どちらも諦める選択肢はなかったんです。そんな時に「海外の大学には色々な選択肢があって両方できるよ」ということを聞いたんです。その時僕のコーチがハワイの大学でテニスをやった経歴があり、プロになって日本に戻ってコーチになった方でした。そのツテもあってハワイの大学に行きました。

テニスから美術やパフォーマンスの方向へシフトしたきっかけは?

元々スポーツをやっていたので、身体を使うという意味ではパーフォマティブだったわけですが。絵を描くのが好きだったので、大学内のスペースで展示させてもらったりもしていました。ずっとテニスしかしてこなかったので、社会的なこともよく分からなかったんですが、大学での授業がすごく濃密だった。英語の授業でも扱う内容が人種差別や女性蔑視、性差別のことや、ジェンダーの平等性、セクシャルマイノリティだったりして。映画などを用いながら、社会的、歴史的な背景を勉強しながら同時に英語を学んでいました。その時に「このままテニスだけしていていいのかな」と思うようになったんです。

もちろんテニスもやりたいと思ったんですが、引退というピリオドのあるアスリートとして自分を駆使していくよりも、アーティストとして社会的な課題と向き合いながら、一生かけて表現していきたい想いが強くなっていったんです。大学の美術の先生に「この先どうするの?」と言われて「アートをやりたい」と伝えたら、ハワイでない場所の方がいいと後押ししてくれたんです。それでロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズに進みました。

セントマーチンズのファインアートに3年間在籍して、パフォーマンスアートに興味が出てきました。知り合いが多かったり、大学院大学で精度の高い授業やスタジオを持てることに憧れて、ロイヤルカレッジ・オブ・アートに魅力を感じていたのですが、僕が入学する一年前にパーフォーマンス科ができたんです。アプリケーションを出したら運良く入学できました。

海外で自分が日本人であることを意識しましたか。

ロンドンではファインアートで日本人はほぼいなかったので、自分が日本人だと思わなくて。ずっとみんなと一緒にいて英語でうわーっと喋って、ふとした時に鏡をパッと見て急に「あっ、自分めっちゃアジア人じゃん 」みたいに気づく時はよくありました(笑)。自分で自分を見た時に「周りと結構違うじゃん」と思うことが多かったです。あとは当時、向こうの方とお付き合いしている時、2人で歩いていて周りの人と目が合うと、外国語で馬鹿にする言葉を言われたりしました。そういうのは、ちょっと悔しいなと思いましたが、逆にそれがいい材料になって自分の表現したいことのアイデアになりました。悔しい体験も制作に転換できたのはよかったと思っています。

「居場所はどこにある?」展覧会設営風景

コロナ禍の自粛期間に考えたことはありますか。

自粛期間で、違う作品を作りたいと思ったんです。めちゃくちゃ身体を鍛えて、どこまで身体が大きくなるかやってみてもいいんじゃないかなと。今まで自分の身体を作品に使うことをやってきて、ニュートラルで中立・中性的なものを自分の身体でどこまで体験できるかということをずっとやっていたんです。だからできるだけ身体も中性的というか、筋肉をなるべくつけたくないという思いがずっとありました。僕は普通の人よりも筋肉が付きやすい体質なので、トレーニングも全然しないで身体の保ち方を意識的に気をつけてきたんです。海外ではセクシャリティやジェンダーについての作品を発表する時に、いい意味で、すんなりできた。歴史や文脈がちゃんと構築された地盤があったし、ムーブメントもあったので。若い人や学生でも自然に表現できて、見る人も抗体ができているというか、見ることがちゃんとできる。

でも日本に帰ってきて、色々な人に「小林君のそういう表現って日本でやるところあるの?」「海外の方が機会が多いんじゃないの?」と言われることが多くて。僕としては日本でできることも多いし、むしろ妥協せずにやっていかなければいけないという思いも強いんですが。ただ日本の環境を観察すると、政治的なこともそうだし、今回のオリン ピックもそうですけど、男性中心的な社会だということを強く感じました。そこで自分が男性としての身体を持っていることに対して、今までちゃんと真正面から向き合ってなかったことに気づいたんです。

それを飛ばして違う身体を求める作品を作っていたなと。コロナ禍で自分の男性としての身体と向き合う時間が増え、めちゃくちゃ筋トレして、それについての作品を作りたいと思ったんです。筋トレを続けて数ヶ月したら、むきむきになっていく自分の身体に慣れてくるというか、鏡で身体を見て、すげー慣れてきてると思って。そのうち服とかも全然入らなくなってきて、ジャケットとかズボンもパンパンで全然入らなくなってきて。なんか途中から、やっぱりその身体がすごく嫌になってきたというか。別に筋トレやっている人全般を否定する気は全くないんですけど、自分個人として、この身体はちょっとやっぱり嫌かもしれないと思って。強さみたいなものを自分がどんどんつけていく感じがすごく嫌になって。それで筋トレは辞めました。自分の中で一年通して思いが行ったり来たりましたね。

自身の身体性を強く意識しているのですね。

男性性を表現して見せた時に不快に感じる人がいると思うんです。特に女性とか。男性の身体のもつ暴力性や加害性がダイレクトに伝わるんだと思う。それに対して申し訳なく思う時がある。肉体的にも精神的にも自分の男性性に気づくと嫌な気持ちになったりするんですよ。だから作品にあえてそういう要素を抽出してアウトプットしたいと思いますね。

自分のパフォーマンスを通して議論の場が増えるといいと思っています。身体の中立性やジェンダーの平等性について、女性やLGBTQの人たちは普段から見られる立場として意識しているんだと思いますが、これからは男性がそこに入って議論する必要があると思います。男性性について当事者の男性が考える必要がある。

「居場所はどこにある?」
2021年6月6日 小林勇輝パフォーマンス

居心地いいと感じる場所や時間はありますか。

どの人といるかで全然違いますね、居心地の良さも。家族といる時、パートナーといる時、昔からの友達といる時で居心地の良さが違う。寂しい人間と思われたら困るんですが、一人でいる時の居心地の良さって僕はすごく好きです。ただ自分一人でいすぎると、誰からも連絡こないかなーと思ったりして矛盾してるんですけどね。その瀬戸際というか、誰かと会いたくなる手前の、自分の時間を満喫している瞬間がすごく好きですね。それからインスタレーションの中に入り込んだり、パフォーマンスしている時、何者でもなく作品の中で自分のアイデンティティを作る時が一番居心地がいいかもしれませんね。一種の居場所なのかもしれません。

今回出品する「New Gender Bending Strawberry」は色々な展開をしているシリーズですね。

はい、人種やジェンダーを超えた存在になってパフォーマンスするシリーズで、ロンドンの学部時代からずっと続けています。もともとはイギリスで、アジア人の自分を異質なものとして見る視線に対して被害妄想気味になっていて、自分でない何者かになろうとして、イチゴの被り物をするパフォーマンスを始めました。それで歩くと「パーティーに行くの?」なんて話しかけられる。その度に「これは僕の身体の一部で…」というように真面目に答えたんです。誰にもわからない存在になることで生まれるコミュニケーションがあるとわかりました。イチゴというちょっとふざけた見た目によって、アート、演劇、エンターテイメントの中間のようなものを作ることができた。コンテクストに縛られない自由なパフォーマンスの可能性を見出そうとしていたんです。

昨年はブラック・ライブズ・マターのムーブメントが起こり、そのことと自分の人種の問題に向き合うために《Stranger in the Fruit》というパフォーマンスを行いました。ビリー・ホリデイの有名な「Strange Fruit(奇妙な果実、1939)」を参照しています。南部の木にぶら下がる奇妙な果実が実はリンチで殺された黒人の死体だったという、実話に基づいたショッキングな歌です。僕が使うイチゴという果物のモチーフを、人種差別を象徴するものとして扱いました。そして被り物を脱ぎ捨ててイチゴをより抽象的に使うことを試みました。分身のような人形を使ってその中に入ったり、見る人とコミュニケーションしたりすることで相互作用が起こる作品で、これからもどんどん進化させていきたいと思っています。今回の展覧会でもどんなことが起こるか楽しみです。

インタビュアー = 鈴木萌夏、伊東五津美
編集 = 荒木夏実
協力 = 姥凪沙、竹下恭可
写真 = 堀蓮太郎

小林勇輝

KOBAYASHI Yuki

1990年東京都生まれ。ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート パフォーマンス学科修士課程修了。自身の身体を中性的な立体物として用いて性や人種、障害などへの固定観念を問い直し、人間の存在意義を探るパフォーマンスやインスタレーションを制作する。

展覧会「居場所はどこにある?」Interviews 一覧