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展覧会「居場所はどこにある?」Interviews

リー・ムユン LI Muyun

「居場所はどこにある?」展覧会設営風景

リーさんは学部から藝大ですが、どうして日本の藝大に入学しようと思ったのでしょうか。

高校がインターナショナルスクールで、留学しないという選択肢がなかったんですよ、友達はアメリカやイギリスを目指していましたが私は日本に来なきゃいけないとわかっていました。どうせ日本へ来るなら、日本のトップレベルはどんなものなのか知りながら勉強したかった。私はトップレベルの場所じゃないと学校で作品が評価されても不安になるタイプだからというのもあります。それは正しい選択だったなと思っています。

日本に行こうと思ったきっかけはありますか?

日本の美大に入る留学生にも多いと思うのですが、最初はやっぱりアニメでした。アニメ映画を作りたいと思って来ましたが希望が変わっていきました。日本に来て3年になるのですが、ここは自分の知らないアジア圏、自分の知らない東の土地で、知らないことばかり増えていく気がして「もっとここにいてここのことを知りたい。そんなに早く離れたくない。」という気持ちが強くなっていきました。今は日本の映画やドキュメンタリー、演劇や舞台などにとても興味が湧いて、日本で時間芸術を作っていきたいと思っています。

作品を制作するにあたって、中国と日本で違いはありますか?

私が中国で制作したのは高校の課題ぐらいなので本気で作家として活動したことがなくて。この問題に関してはまだ判断する権利はないかなと思います。今後中国で制作する機会があれば判断できるんじゃないかなと思います。

《山を背負う子たち》The Child Who Has a Mountain on the Shoulder 2020

先ほどアニメが好きとおっしゃっていましたが、日本のアニメが中国では日常的に放映されているのですか?

テレビではそんなに多くなくて子供向けが多いんですが、ニコニコみたいなサイトでは日本のアニメの著作権を買ってみんなに見えるようにしていることが多くて、中国にもアニメファンは多いです。

ちなみに一番好きなアニメはなんですか?

最初にハマったのは「ワンピース」です。中学校の頃に字幕付きで見ていました。それで段々簡単な日本語のフレーズは分かるようになっていきました。日本のゲームをするときには50音図を横に置いて読み上げてみたら、ああ分かるとなって、そんな感じで日本語を学んでいきました。

リーさんは「人間の物語を語る行為と人間の平凡さ」をテーマにしていますが、作品について教えてください?

昔アートをやり始めた頃は「天才」という概念にこだわりがあり、こっそり自分は天才じゃないかなって期待したりもしました。でもある瞬間に自分が天才じゃないんだってことに気づいてしまって。でもそれは妥協ではなくて、自分が天才でないことを認めることによって見えてくるものがすごく増えた気がします。自分のプライドを捨てて低い姿勢から世界を見ることによって、一人一人の平凡な人間がすごく美しく生き生きと見えてきました。平凡な人間が語る、彼らだけ持ってる物語がすごく美しくて。人間が自分の人生をシェアしていく行為にすごく惹かれています。なので今回の作品もですが、作品を通じて自分の才能を表したいということよりも、他者の物語を伝えたいという思いが今回は特に強かったです。

《山を背負う子たち》The Child Who Has a Mountain on the Shoulder
「居場所はどこにある?」展覧会場写真

作品にすることで個人のプライバシーがさらけ出されてしまうことについて、気をつけていることはありますか?

ありますね。今回は一つ一つ載せてもいいか確認しながらやっているんですが、ドキュメンタリー系の作品には被写体への暴力性がどうしても存在していて。それは自分にとっても大きな課題だと思います、今回は友達だったので確認ができましたが、今後もっと撮りにくい被写体を扱おうとするときはどうするのという悩みがあります。ドキュメンタリー作品の暴力性を意識しつつ、被写体や観客が傷つかないことを心がけています。それはすごく難しくて、どうしても作品を通じて自分の偏見や印象、今までに歪んでしまっているかもしれない価値観が出てしまいます。制作当時に気づかなくても後々気づく場合も多くて。それがメインの悩みの1つでもあります。2つ目は観客が自分の作品を鑑賞しているとき、中に出てくる人物はただの人間として認識するように今回は特に気をつけました。作品中に登場する友達たちを中国人としてではなくて、一人一人の人間として見てほしいと思っています。

次に作品を撮るときテーマになりそうなことはありますか?

はい、1つ目はドキュメンタリーの暴力性と関連してボランティア活動の暴力性について語っていきたいと思っています。今実際にボランティア活動をしているので。あとは、人間が好きなので人と共感できるものを作りたいと思っています。

リーさんにとっての日本と中国の存在の差などはありますか?

政治的な違いがまずとても大きい。日本は資本主義ベースの国家で中国は共産主義ベースの国家という違いがまずあります。あとは人と人の距離も違うように感じます。中国だとすぐに人と仲良くなったりするんですが、日本の場合は距離がちょっと遠いように感じます。私はもうこの距離でも大丈夫だろうなと思っても、日本人の子はまだその距離感ではないみたいなことがある。距離感に差のある期間が過ぎたら同じ距離で友達にはなれるんですが、受け入れるためにかかる時間が違うなと思います。片思いに近いような。今は良い友達に恵まれています。

「居場所はどこにある?」設営風景

コロナの自粛期間などで、考えたことや新たに始めたことなどはありますか?

先ほども言った通り、ボランティア活動を始めました。自分と自分の家庭はすごく資本主義的に恵まれた家庭だという罪悪感から始めたんですけれども。

具体的には児童養護施設から巣立っていく18歳の子に家具や家電を集めてあげるという活動です。友達の中にはボランティアアンチの人もいます。私はこの世界や構造を変える力も野望も持っていませんが、この世の中の人が1人でも多く助かる…とまではいかなくても、ちょっとでも役に立てば価値があるのではないかと思って始めました。でもボランティア活動を通じて自分の知らない社会を知りたいとか、見たことのない人間を見たいとか、自分より恵まれていない人の生活を知りたいという個人的欲望もありますね。

その場所で人と話したり、リサーチをしているのですか?

NPOなどが所有している倉庫の家具の在庫確認やシステムの登録、カタログを作って巣立つ子たちに選んでもらったりという地味な仕事をやっています。ほとんどが50代以上の方で大学生は今私だけなんです。私たちがやっていることの中には不要不急なことも含まれてはいますが、私はこの活動は確実に必要で、正しい活動だと思っています。

巣立っていく18歳の子たちは政府から17万円ほどしか補助してもらえなくて、ほとんどが4年制の大学には進学できないんですね。突然一人暮らしが始まってしまうし、家具を買うお金なんてないんです。

施設の理事長さんに、本当に家具をもらって嬉しいのか、そして自分たちが可哀想な存在として扱われていることに居心地の悪さを感じないのか聞いてみました。すると、家具の贈呈式の時に自分が一人じゃないという気持ちになって心の底から喜んでいるらしく、虐待されていて一言も話せなかった子から「ありがとう」「頑張る」といった言葉が出てくるそうです。それを聞くとやって良かった思えるようになります。

リーさんにとって「居心地がいいな」と感じる瞬間や場所はありますか?居場所はどこにあると感じますか?

まずは、猫しかいない自分の自宅。私の日本語力でついていけるような友達との会話。友達との会話の中でわからない日本語が出てきて、「これどういう意味?」と聞いて返事をもらった時。あと、中国の物産屋や中国料理屋、カフェや地下鉄の隅っこの席は居心地が良く感じます。居場所はどこにあるのかというと、自分の国や実家ですね。でも今自分がいるここも、居場所に近づいていくという予感は段々強くなっています。

インタビュアー = 鈴木萌夏
編集 = 荒木夏実
協力 = 伊東五津美、姥凪沙、竹下恭可
写真 = 堀蓮太郎
映像作品スチル = 作家提供

リー・ムユン

LI Muyun

2000年中国上海生まれ。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科3年生。人間の「平凡さ」を語る映像、ドキュメンタリー、ラジオドラマなどのタイムベースド・メディアを用いて作品を制作している。現在は、自身のことより他者の物語を語ることに関心がある。

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