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展覧会「居場所はどこにある?」Interviews

室井悠輔 MUROI Yusuke

「居場所はどこにある?」展覧会設営風景
左:室井悠輔 中央:荒木夏実 右:竹村京

今回の作品を制作するきっかけとして、夢で「王国を作りなさい」というお告げがあったとのことですが?

もともとアール・ブリュットに関心があって、そういった絵から影響を受けて制作をしていました。けれども制作を続けるうちに搾取しているような罪悪感や、自分の作品が偽物に思えるといった葛藤がありました。

大学院の修了展が近づくにつれて、どうしようかと悩んでいると、入試の会場で試験監督に「王国を作りなさい」と囁かれる夢を見たのです。アール・ブリュットの作者たちも夢のお告げに従って作品をつくることはよくありますが、自分もお告げを受けたことで制作のための許しを得たような気がしました。

そもそも美術に興味を持ったきっかけは?

小学3年生くらいだったとき、四つ切り画用紙に思い出を描く夏休みの宿題がありました。私は地元の花火大会の絵を描くことにしたのですが、参考として親から山下清の画集を見せてもらったのです。それが実家に唯一あった画集で、そのあともたびたび参考にしたと思います。世界的な美術史に登場するような絵画に触れるのはもっとあとで、そのころの私にとっての美術は山下清でした。

《王国をつくりなさい》You Should Make a Kingdom
「居場所はどこにある?」展覧会場写真

大学のような権威的なものへの抵抗があるとか?

親から大学に行くように育てられたという自覚はあって、それに応えなければならないという思いで大学に入りました。また、競争する環境に身を置くと、目指すところが大学になるというのはあると思います。ただ、権力に対する生理的な嫌悪感があって、大学に入ることでそれを纏ってしまったような感覚がありました。けれどもマイナスに捉えすぎても仕方がないので、逆に利用するくらいの気持ちで卒業を目指しました。

室井さんの作る王国は上下関係がなくみんなフラットに共存しているように感じます。

すべての価値を等価にするというのは考えていて、どんなモチーフも同じように扱い、同列に並べます。けれども、何かが足を引っ張るような状況には見えないように、コンポジションを意識して絵画のように構成しています。また、小さい頃、空き箱の中に割り箸で迷路を作ってビー玉を転がすという遊びをよくしました。この作品ではビー玉の視点で、身近なもので景色を作るような、そんなイメージがあります。搬入はいつも楽しみたいと思っているので、遊びの要素も入れています。

素材選びもアール・ブリュットの世界観からきていますか。

あらゆるものを捨てられなくて、もったいないと思ってしまいがちです。例えばお菓子が入っていたパッケージとかも、とっておけばコラージュに使えそうだとか、資料として残しておきたい気持ちが湧きます。保存可能なものにはそういう気持ちが常にあって、ほとんど捨てられず、ストックしています。作品の素材はそういうところから選ぶことが多々あり、アール・ブリュットの手法にも共通していることと思いますが、その行為を真似しているというわけではなく、ものに対する私の純粋な執着だと思います。

「居場所はどこにある?」展覧会設営風景

色々なものを収集しているそうですが、アール・ブリュットに感じている魅力と関係がありますか。

そうですね、アール・ブリュットと同じ魅力を放っているものを集めているのかもしれません。思いもよらない新鮮な質感や構図に出会う衝撃というのは、アール・ブリュットの作品からこれまで何度も受けてきました。ただ、ものを集めるというのは、入手しなければどこかに渡って失われたり、廃棄されてしまうかもしれない不安からのような気がしています。リサイクルショップや骨董市で出会った品物は一期一会で、アーカイブされることもありませんから。

コロナ禍で変わったことや始めたことはありますか?

コロナがきっかけというわけではないですが、同じ大学出身の森唯杏と機山隆生と自分の3人で「とうふと蟹クラブ」というアーティストコレクティブを2019年末くらいから始めました。森唯杏は大学卒業後に就職して制作活動をやめてしまったのですが、もう1度作品をつくってもらいたいなと思って一緒に活動を始めました

学生の立場だと課題が出て必然的に作品をつくりますが、卒業するとそうもいきません。私たちはオンラインで離れたところから各自1日1制作を課しInstagramで発表をしています。実作品を展示できないのは残念ですが、オンラインで発表することによって、日本以外のかた ―不思議なことですが北欧の人たちから多く反応があったりします。

居心地がいいと感じる場所や瞬間はありますか?現在の職場である大学は?

ひなびた温泉街にいるときなどでしょうか(笑)。戦後に起きた国内観光ブームが終わって、退廃的な切なさもありますが、そういった場所には昭和40年ぐらいから見向きもされずに売れ残っているお土産に出会うこともあります。さらに温泉の硫黄の匂いを嗅ぐと落ち着きますね。

大学については、学生の頃は居心地のわるさを感じていましたが、今はそこで助手として働いていますし、全否定は出来ません。ずっといたことで場所愛のようなものが生まれてしまったのかもしれないです。自分の所属していた研究室の小沢剛先生からは「結局あいつは大学が好きなんだよ」なんて言われたりしましたが、実際助手までやってみると、大学は恵まれているところが結構あると思います。とにかく失敗ができますし、ものを作る環境があります。社会に出るとなかなか難しいです。

助手をする前に大工としても働いた経験があったとのこと。どこが魅力でしたか?

やっぱり見たことのないものを見ることができたり、スキルアップしていくのが自分でもわかって、それが面白かったです。最初は本当に何もできなくて、迷惑をかけたり心折れそうになりました。だんだんと新しい仕事を任されたり、特殊な現場にも入るようになったことで視野が広がっていく感覚がありましたね。

ただ一方で、そうやって朝から晩まで働いていると、個人の作品をつくる時間は取れませんし、これまでの自分の表現活動と乖離していく感じがしました。仕事でいっぱいいっぱいで疲弊していく自覚がありましたし、表現活動を捨てきれない思いが込み上げてきました。

「居場所はどこにある?」展覧会設営風景

自身の制作とアール・ブリュットとの差について。

差異があるからこそずっと悩んできました。アール・ブリュットの作家の執着やセンスは私の理解を超えているところがありますが、うわべを真似るのではなく、その人がそういった表現に至った経緯を理解しようとします。もちろん同じにはなれませんし、その人の気持ちになろうとか、同じ描き方をしようと思って制作はしません。私が大学卒業後に労働者になったのは、アール・ブリュットの作家の影響もあるのですが、それよりもアカデミックな場所から逃れるための手段であり、就職しなければならないという親からの抑圧に対する応答でした。今は、これまでに見てきたものに敬意を払ってより良い絵を描こうと思っていますし、同じようにより良い絵を目指すアール・ブリュットの作家がいるならば差異は小さなものになるかもしれません。けれども大学での美術教育の有無というのは障壁となり、差異となるでしょう。私は美術教育で得たことを活用しますが、得た知識や技術を使用するというのは自然なことですし、私になくて彼らにあるもののほうが計り知れません。

最後に室井さんにとって居場所はどこにあると思いますか?

居心地の良さを居場所に求めるならば、まだ見つかっていなくて、理想郷みたいなものを目指すために制作を続けているという気がしますね。

インタビュアー = 鈴木萌夏
編集 = 荒木夏実
協力 = 伊東五津美、姥凪沙、竹下恭可
写真 = 堀蓮太郎

室井悠輔

MUROI Yusuke

1990年群馬県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻修了。グラフィティに影響を受け路上での制作を開始。その後アウトサイダーアートや民芸から着想を得て制作・収集を行う。現在は労働と共にある自身の生活と記憶に着目した表現を展開する。

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